初夏から立秋にかけて、明け方三時から四時ごろ、わが家の向かいにある市営グランドの樹木の茂みの方から、”ヒュー・ヒュー、ビュー・ビュー、ガガー、ジジー・・・"、と聞こえる野鳥のカン高い、
大きな声が毎日続いた。騒音のような、このうるさすぎる地鳴きでつい目が覚める。わが小庭にもあらわれる、この聞き慣れない声で鳴く野鳥は、外来種の「ガビチョウ」だ。かってペットとして飼われていたが、
その大きな鳴き声に飼い主が耐えられず籠から解き放った結果、野生化してしまった鳥(注-1、2)。「ガビチョウ(画眉鳥)」は、ヒヨドリほどの大きさで、褐色の羽毛と眼の周りの白い流涙模様の眉班が特徴(写真-1)。
「画眉」とは、“眉を画く"という意味(注-3)で、眉を白く塗ったような眉班の模様が名前の由来になっている。
「ガビチョウ」を初めて見たのは、今年の五月はじめのこと、家族で近くの自然公園をウオーキングしていたときだ。「小動物園」と「梅林」に挟まれた小道を歩いていると、今まで聞いたことがない甲高い騒々しい鳥の鳴き声がした。すぐそばで鳴いているようだが、「声はすれども姿は見えぬ」、まわりを見まわしても何処にいるのか分からなかった。そのとき、ふと小道のそばにある高さ5mほどの松の木の枝を見ると、からだの羽毛が褐色の幼鳥が止まっていた(写真-2)。そして、親鳥を探しているのか、一生懸命に鳴いている。
親鳥も近くにいるらしく、盛んに鳴いて幼鳥を呼んでいるようだ。
10秒ほどすると、幼鳥は親鳥のもとに飛んでいったのか、姿が見えなくなった。
自然公園で出会った野鳥は、はじめて見る種類だった。家に戻ると「日本の野鳥の図鑑(注-4)」を取り出し、スマホで撮った幼鳥の写真と図鑑にある野鳥の写真とを比較しながらこの野鳥の名前を調べた。
白い流涙模様の眉班と褐色の羽毛の特徴から、野鳥は外来種の「ガビチョウ」だと分かった。「ガビチョウ」とはどのような鳥か、調べた情報を列挙すると、
⚫︎ 本来、中国南部から東南アジア北部に分布する、
⚫︎ ‘70年代、飼い鳥として人気があったが、鳴き声の大きさから敬遠され屋外に放たれたらしい、
⚫︎ ’80年代に北九州で野生化が確認された、
⚫︎ ‘90年代以降に急速に分布が拡大して、神奈川、東京、山梨など関東でも増加している、
⚫ 「外来生物法」で定める、日本の生態系を乱す心配がある「特定外来生物」に指定されている、
⚫︎ ハワイでは、生息環境の優占種となって在来種衰退の一因となっている(注-1、2、5)。
既に、私の住む神奈川も「ガビチョウ」の分布域らしい。わが家の近くにも分布していることを示す資料が、
家族のウオーキングルートにあった。家から15分ほどの場所にボーイスカウト活動の場になっている小さな森があり、森の柵の前に「善部町特別緑地保全地区愛護会」の掲示板が立っている(写真-3)。
6月のある夏日のウオーキングのとき、その掲示板を何気なく覗くと、「善部の森で見かけた野鳥」のポスターが貼ってあった(写真-4)。アイウエオ順の31羽の野鳥の名前と写真の中に、
堂々と、あの「ガビチョウ」がありました。説明書きは、全長25cm、留鳥(外来種)。わが家の近くにまで、既に野生化した「ガビチョウ」が分布しているわけですから、
わが小庭にあらわれても不思議ではありません。やがて、メダカの睡蓮鉢を水場にしたり、ハナミズキの枝に止まって甲高い声で鳴いている姿を見るようになった(写真-5)。
人を怖がらないのか、私がスマホで写真撮影する動きをしても、なかなか逃げようとしません。わが小庭に初冬から春先にかけてやってくる、メジロ、シジュウカラたちの、
愛らしい姿やさえずりの声、行動とは、全く異なっている。
最近、わが小庭で二つの奇妙な出来事がおきた。一つは食害。袋掛けしたまだ熟していない巨峰の袋が破られ(写真-6)、果肉が食べられて青い皮だけが10個ほど地面に落ちていた。
まだ甘くないのに、地面に落として食べたようだ。確かこの頃、明け方に、ぶどうの木が植えてある裏庭あたりでも、私の眠りを妨げる野鳥の甲高い鳴き声がしていた。いまは、鳥避けネットを張って鳥害を防いでいる。
もう一つは蝕害。白樫の枝に掛けている、ランを植えてある「シュロのハンギング・プランター」の側面が大きくかじられ、真下にある「メダカ鉢」の水面と周りの地面に、
シュロの繊維が落ちていたのです。野鳥が巣作りの材料を集めているのだろうか。損傷箇所を、木香薔薇を伐採したときに剥ぎとり保存していた皮で補修しても、また、もっと大きくかじられた(写真-7)。
結局、新しいシュロの「うつわ」にとりかえたのです。昨年は、卵から育てていたこの「メダカ鉢」の二十匹ほどのメダカが、一夜で全て何者かに食べられる事件がありました。このメダカ事件の犯人は、地面に残された足跡と近所のメダカ繁殖家からのアライグマ被害情報から考えて、特定外来生物の「アライグマ」だったのでしょう。しかし、今回の二つの事件の犯人は、「アライグマ」ではなく、
最近わが小庭に突然あらわれ出した「ガビチョウ」のしわざだと思えるのです。
ここ10日ほど、米国ハワイ州マウイ島の山火事のニュースがTVで頻繁に放映されている。この山火事の拡大要因の一つとして、外来種の植物「ギニアキビ」が指摘されている。
その乾燥した枯草が広がる野原で、火が瞬く間に燃え広がった、と。一方、ハワイでは外来種の「ガビチョウ」による深刻な環境問題があります(注-2)。
今では、ハワイの生息環境の優占種となって在来種衰退の一因となっているとのこと。日本でも、「ガビチョウ」の分布域の拡大に伴い、在来種の野鳥衰退のリスクがあるはずです。
ついこの間まで、明け方の野鳥の甲高い異常な鳴き声には悩まされたが、不思議なことに、猛暑日が続くようになってからは聞こえてこなくなった。そして、わが小庭にも、あらわれなくなった。より涼しい場所に移動したのでしょうか。「ガビチョウ」による、わが家の安眠妨害、小庭のぶどうの食害、そしてプランターの蝕害があったが、視点を変えてみると、我々の住む地域の生態系、環境にダメージを与える外来種によるリスクが、すぐそこにあることを教えてくれた。「ガビチョウ」を含む外来種の分布域の拡大とその環境影響を抑制するための「アラート」を、行政が分かりやすく発出する必要があるのでは、と思いはじめている。
今市重道
(添付写真-1) : “ガビチョウ" 善部町特別緑地保全地区愛護会の野鳥ポスターの
写真
(添付写真-2) : “松の木の幼鳥"
(添付写真-3) : “ 森の掲示板"
(添付写真-4) : “野鳥のポスター"
(添付写真-5) : “ 睡蓮鉢のガビチョウ"
(添付写真-6) : “ 破られたぶどうの袋"
(添付写真-7) : “ かじられたシュロのうつわ"
(注-1) : 「野鳥の声を楽しもうNo31 」、日本野鳥の会埼玉、2021年
(注-2) : 「愛知県における主要外来種の現状」、愛知県環境自然課、2020年
(注-3): 「広辞苑」、岩波書店
(注-4): 永井真人/永井凱巳、「日本の野鳥420」、主婦の友社、2020年
(注-5): 「外来生物法」、環境省HP
以上
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