『植物学とオランダ』というタイトルの本を読み終えた。この一カ月ほど、読んでみたいと思っていた本だ(注-1)。娘が、父の日にプレゼントしてくれました。
カバーには、鮮やかな紅色の「ルゴサ(ハマナシ)」の絵が精密に描かれている(写真-1)。
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『植物学とオランダ』のカバ- |
(注-1) : 大場秀章『植物学とオランダ』、八坂書房、2007年
六月のHPに投稿した『香りの思い出』の原稿を練るときに、「香りやバラの品種改良の歴史」について本棚の本やインターネットの資料を調べた。このとき、日本固有種の「ハマナシ」と「ノイバラ」がヨーロッパに渡り多くのバラの改良種が造られたいうことを初めて知った(注-2)。それまで、バラは代表的な洋花だと考えていましたので、和花のDNAをもつ園芸種のバラが世界中で愛されている事実に、日本人として少し誇らしさを感じた。ただ、生きた「ハマナシ」をヨーロッパに初めて持ち込んだ植物収集家は誰なのか知りたかったが、分からなかった。しかし、『植物学とオランダ』の内容紹介を見たとき、その本の中に答えがあるという気がした。本のカバーに描かれた「ハマナシ」の絵(注-3)も、
そのことを暗示しているようにも思えた。 (注-2) :『マイ・グリーン第4号-花の贈りもの』,バラの歴史を読みなおす(斎藤正ニ)平凡社,1982年
(注-3) :バラの画家として高名なピエール・ジョセフ・ルドゥーテに拠る『バラ図譜』1835年の中の
一葉、私の問い合わせに対する八坂書房営業部の返信メール。
『植物学とオランダ』には、あのシーボルトが日本から国外追放された後、オランダのライデンに居を構え、日本固有種の植物をヨーロッパの庭園に広めた経過がまとめられている。240ページの本を何回も読み返した。私が知りえた三つの重要な情報を列挙するとーー
まず、一番知りたかった、生きた「ハマナシ」をヨーロッパに導入した人物はシーボルト。この本の著者は、オランダの北海に面するアメラント島を訪ね、耐寒性に優れたハマナシが日当たりのよい傾斜地や緩やかな砂地に生い茂って花盛りしている素晴らしい風景をスケッチしている。
次に、よく知られていることだが、シーボルトは日本固有種の「紫陽花」である「ガクアジサイ」と長崎の出島で一緒に暮らした「お滝さん」の名前から名付けた「オタクサアジサイ」をヨーロッパに導入したこと。
そして、最後に、シーボルトがヨーロッパに持ち込んだ日本固有種植物のリストには、「テッポウユリ」、「カノコユリ」などは掲載されているのに、「ヤマユリ」の名がなかったということ。
なぜなら、彼の生きた時代には「ヤマユリ」の球根を生かし続ける技術が無く、ヨーロッパに持ち込めなかった。 明治時代になってから、神奈川県を中心に山採りされた多量の「ヤマユリ」の球根が花形の輸出品として海を渡ったそうだ。
ユリについての資料をみると、いま目にする香り高く大輪の「カサブランカ」は、日本固有種の「ヤマユリ」と「カノコユリ」をもとに造られた改良種であることが分かる(注-4)。
(注-4):サカタのタネ『園芸通信-ユリの王国(その10)』、2020年
日本の地に固有種として自生していた植物の「ハマナシ」、「紫陽花」、「ヤマユリ」などがおよそ二百年前にヨーロッパに渡り、ヨーロッパの人に愛され続け、
数多くの園芸家が改良を重ね、日本に“里帰り”している。わが家の小さな庭に咲く花たちに目を向けると、華やかな花の色が日に日に移ろうそばで、
季節を彩るように、それらの花も咲いている。いまは、群青色、緑青色、紅色の“てまり“のような「紫陽花」、白い「テッポウユリ」と黄色の「オニユリ」、
桜色の「ブラッシングノックアウト(バラ)」など(写真-2、3、4)。「紫陽花」やバラはヨーロッパの改良品種でしょう。「テッポウユリ」と「オニユリ」は日本固有種だ。
ヨーロッパやアメリカで品種改良された和花のDNAをもつ花と日本固有種の花が、わが小庭で混在しながら調和を保っている。
この記事を書きながら、何か感慨深いものを感じている。そして、わが小庭の季節ごとに咲く花たちに愛情を注いで育てている妻と『植物学とオランダ』を贈ってくれた娘に深く感謝している。
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小庭の
テッポウユリと紫陽花 |
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小庭のオニユリ |
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小庭の
ブラッシングノックアウト |
筆をおく前に、そうだ、「ルエリア」のことを忘れていた。この記事を書きだしたときには、まだつぼみだったが、昨日、青紫色の花がひっそりと咲いていることに気づいた(写真-5)。熱帯アメリカ原産の多年草、私の好きな花だ。
きっと初冬のころまで毎日咲き続けるでしょう。
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ルエリア |
今市重道
(添付写真-1) : 『植物学とオランダ』のカバ-
(添付写真-2) : “小庭のテッポウユリと紫陽花“
(添付写真-3) : “ 小庭のオニユリ“
(添付写真-4) : “小庭のブラッシングノックアウト“
(添付写真-5) : “ ルエリア“
(注-1) : 大場秀章『植物学とオランダ』、八坂書房、2007年
(注-2) : 『マイ・グリーン第4号-花の贈りもの』バラの歴史を読みなおす(斎藤正ニ),平凡社,1982年
(注-3) : バラの画家として高名なピエール・ジョセフ・ルドゥーテに拠る『バラ図譜』1835年の中の一葉、私の問い合わせに対する八坂書房営業部の返信メール
(注-4):サカタのタネ『園芸通信-ユリの王国(その10)』、2020年
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